韓国時代劇を見ていると、よく登場するのが「宮女(クンニョ)」と呼ばれる女性たち。
王様や王族に仕え、宮廷の運営を支える彼女たちは、『赤い袖先』や『チャングムの誓い』など、時にドラマの主役になったり、物語の鍵を握る存在として描かれます。
でも、実際「宮女」とはどうやって選ばれ、どんな生活を送っていたのだろう?
この記事では、そんな朝鮮王朝時代の宮女について、その役割や人生に焦点を当てて詳しく解説します。
宮女とは?どんな女性がなるの?
- 宮女(クンニョ、궁녀)とは
- 出身階層・年齢
- 年齢と募集方法(チャングムで出てきたオウムの血)
- 宮中での仕事|部署と役割の分担
- 恋愛・結婚はできたのか?
- 宮女の出世と限界
- 「出宮」とは?宮女の“引退”の実態
宮女(クンニョ、궁녀)とは
朝鮮王朝の時代、「宮女(クンニョ、궁녀)」とは、王宮の中で働いていた女性たちのことです。王族ではない、宮中女性がこの呼び名で呼ばれていました。
彼女たちは「内人(ネイン)」や「女官」とも呼ばれていて、それぞれの仕事に応じて「至密内人)」「針房内人」「生果房内人」など、担当ごとに呼び名が変わります。
宮女の仕事はとても幅広く、王や王妃、王族の身の回りのお世話をするのはもちろん、料理・洗濯・裁縫・刺繍など、日常生活を支える大切な役割を担っていました。
「トンイ」や「赤い袖先」などでも描かれる宮女ですが、ただの使用人としてではなく、ときには王の寵愛を受け、側室になったりするなど、ドラマチックな運命をたどる人もいます。
出身階層
宮女の多くは「中人(チュンイン)」と呼ばれる中間階級や、常民(サンミン)などの庶民階級の娘が中心でした。両班(ヤンバン、貴族階級)出身は少なく、むしろ低い身分の家庭の子女が多かったとされています。
ただし、時代や職務によっては両班や中人の家系から選ばれることもありました。例えば、後宮や高位の女官になるにはより高い身分が求められるなどです。
王室は良い出身の宮女を求めましたが、両班(ヤンバン)、中人(チュンイン)、常民(サンミン)といった良民階級から、強制的に女性を徴発することが社会問題となることも度々あったようです。
景宗(キョンジョン)の治世下(1723年)には、良人女性の選抜を禁じる命令が出され、さらに英祖(ヨンジョ)22年(1746年)には、良人女性を宮女にした者には杖60回と1年間の徒刑を科すという制度が定められています。しかし、この制度が設けられた後も強制徴発の弊害は消えず、英祖の息子の嫁である恵慶宮洪氏(ヘギョングンホンシ)が許可なく良人女性を宮女に採用し、夫の思悼世子(サドセジャ)が英祖に叱責されたという記録も残っています。Wikipedia女官より

時代の流れによっても変わるようですね。
1801年に官奴婢制度が廃止され、多くの官奴婢が良人へと組み込まれた後は、こうした規則を守ることが一層難しくなったようです。高宗(コジョン)や純宗(スンジョン)に仕えたある尚宮(サングン)の証言では、至密(チミル、内殿係)、針房(チンバン、裁縫係)、繍房(スバン、刺繍係)といった部署の宮女は、ほとんどが中人出身だったとされています。

制度と実態が違うのはあるあるですよね…。
年齢と募集方法(チャングムで出てきたオウムの血)
宮女として採用される年齢は、一般的には4歳から13歳くらいまでの少女が対象でした。
宮女は全国の地方から集められ、欠員が出るたびに募集が行われました。採用には厳格な審査があり、王室に逆らったり裏切った歴史を持つ家系の子女は除外されました。
10歳以上の志願者には「オウムの血」を使った独特な適合性テストが行われ、血が一滴のままなら合格、滲んだり崩れた場合は不合格(処女ではない)とされました。

オウムの血で検査。チャングムの誓いでもありましたね!
宮中での仕事|部署と役割の分担
宮女たちは、宮廷で必要とされる様々な実務を分担して行っていました。その仕事内容は、所属する部署によって大きく異なります。
主な部署と役割は以下の通りです。
- 針房(チムバン)・繍房(スバン):宮中で使う衣服を作ったり、刺繍をしたりします。
- 焼厨房(ソジュバン):王族の食事を作ります。(『チャングム』の舞台として有名ですね。)
- 生果房(センガバン):飲み物やお菓子を作ります。
- 洗踏房(セダッパン):洗濯や、洗った衣服の手入れをします。
- 至密(チミル):王様や王妃、大妃(テビ)など、内殿(ネジョン、王族の居住空間)の最も身近な世話をします。
恋愛・結婚はできたのか?
宮女は原則として生涯独身であり、王宮の外で暮らせない厳しい規律のもとで生活しました。男性との関係は厳禁で、密通が発覚すれば重罪(死罪)の厳しい世界です。
ただし、王の寵愛を受けた場合に限って、側室として昇格する道が開けます。 女官から寵愛を受け側室となった『赤い袖先』のドギムはまさにこのパターンです。
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宮女の階級・出世と限界
品階 | 名称 |
---|---|
正五品 | 尚宮(サングン)、尚儀(サンイ) |
従五品 | 尚服(サンボク)、尚食(サンシク) |
正六品 | 尚寝(サンチム)、尚功(サンゴン) |
従六品 | 尚正(サンジョン)、尚記(サンギ) |
正七品 | 典賓(チョンビン)、典衣(チョニ)、典膳(チョンソン) |
従七品 | 典設(チョンソル)、典製(チョンジェ)、典言(チョノン) |
正八品 | 典賛(チョンチャン)、典飾(チョンシク)、典薬(チョンヤク) |
従八品 | 典燈(チョンドゥン)、典彩(チョンチェ)、典正(チョンチョン) |
正九品 | 奏官(チュグン)、奏商(チュサン)、奏角(チュガク) |
従九品 | 奏変微(チュビョンチ)、奏微(チュチ)、奏羽(チュウ)、奏変官(チュビングン) |
入宮後は長い修行期間を経て「内人(ナイン)」となり、さらに数十年にわたる勤続の末に「尚宮(サングン)」へと昇進します。尚宮となるには、担当職務によって25年から35年もの歳月が必要でした。
宮女は原則として「内人」としてスタートし、長年の勤続や能力、信頼によって「尚宮」などの高位に昇進することができました。
ただし、王の寵愛を受けて承恩尚宮から側室に昇格する別ルートも存在します。
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様々な部署があり、品階を持つ女官や品階を持たない下働き(婢子、ムスリ、カクシム、房子、医女など)が働いていました。下働きの女性たちは、主に尚宮やナイン(見習いを含めた下級宮女)の補助や雑務に従事し、一般の宮女よりも待遇は劣っていました。
「出宮」とは?宮女の“引退”の実態
出宮(チュルグン)とは文字通り宮廷から出ていくことを意味し、宮廷での任務を終えて退去することを指します。
朝鮮王朝では、宮女が宮廷内で死ぬことは許されず、重病や長期の病気で働けなくなった場合、必ず宮廷を出て最期を迎える決まりでした。
また、仕えていた王族や高級官吏が失職・死去した場合も、配置換えはせず原則として宮を出ることになっていました。
宮女をもっと知るための時代劇たち
- 『赤い袖先』…見習い宮女から王の寵愛を受け側室昇格の葛藤
- 『チャングムの誓い』…料理係から医女への転身
- 『トンイ』…下女から王の側室へ
- 『オクニョ』…囚人→司憲府関係者へ
- 『ヘチ』…側室の葛藤や官女の運命
ドラマで印象的な宮女の描写が、実は史実に基づいていたりするものもあれば、かなり創作が多いのもあったりと、韓国時代劇の興味深いポイントです。